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最高裁判所第二小法廷 昭和32年(オ)1054号 判決 1958年7月04日

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人らの負担とする。

理由

上告代理人弁護士山中伊佐男の上告理由は別紙のとおりである。

論旨は、原判決は法律の解釈適用を誤り、かつ重大な事実の認定を誤つた違法がある旨を主張するのであるが、要するに、本件選挙の開票手続に違法の点はなく、かりに違法があつたとしても選挙の結果に異動を及ぼす虞はなく本件選挙は無効でない旨を主張するに帰する。

しかし、本件選挙の開票手続について原判決の認定するところによれば、開票事務進行の中途選挙長の求めにより選挙立会人は所定の席に戻り、右立会人席から着席したままでは、選挙事務従事者の撰別する投票の記載内容を知ることは不可能であるため、その後においては、選挙立会人は開票台上の投票を自席では自由に点検し得る状況にはなく、かくて、選挙事務従事者により有効票として候補者毎に撰別されて開票台上に積み重ねられたものについては、その大部分につき、更にこれを選挙長及び選挙立会人に回示又はその他の方法により点検せしめることのないまま、選挙長において立会人の意見をも聴くことなく、これを有効票として各候補者の得票数に算入し、また、白票については立会人に回示して意見を聴かず無効票中に加えたものもあるというのである。以上の事実が公職選挙法六六条及び六七条の規定に違反することは極めて明白である。そして、右両条の趣旨からいつて、右の規定違反は、選挙事務執行の公正を害し且つ選挙の結果に異動を及ぼす虞のあるものというべく、原判決が、これによつて本件選挙を無効とすべきものと判断したのは正当である。

論旨は、白票は誰が見ても白票であつて、いちいち立会人に回示せずその効力について立会人の意見を聴かなくても選挙の効力に影響を与えるわけがない旨を主張するのであるが、原判決は右の事実のみによつて本件選挙を無効としたのではなく、また、選挙事務従事者が白票と判断しただけでは直ちにこれを無効投票とすることはできないのである。論旨はまた、原判決が立会人は投票を点検し得る状況になかつた旨を判示したのを非難するのであるが、原判決の認定するところによれば、前記のように立会人席からは選挙事務従事者の撰別する投票の記載内容を知ることができなかつたというのであつて、所論のように立会人がある程度記載内容を見ることができたからといつて、これをもつて立会人が投票を点検したものということはできない。論旨はまた、本件開票手続は、選挙長、立会人、参観者等の面前で厳重な監視の下に行われ不正の行われる余地はなかつた旨を主張するのであるが、原判決はこの点について、何等かの不公正な事実の介入を疑う余地なしとまで断ずることはできない旨を判示しているのである。そして原判決の認定した諸般の事実から見れば、その判断は正当であるといわなければならない。

さらに論旨は、原判決が認定した上述の事実は当選無効の原因となることはあつても選挙無効の原因にはならない旨を主張するのである。しかし、開票手続以後の選挙の規定違反も選挙無効の原因となり得ることは当裁判所の判例とするところであり(昭和二七年(オ)第一三六号事件、同年一二月五日判決、民集六巻一一号一一二七頁、昭和二七年(オ)第六二一号事件、同三〇年三月一〇日判決、民集九巻三号二五六頁参照)、本件のように不公正な事実の介入を全く否定することができないような規定違反があつた場合は、所論のように当選無効の判決をし公職選挙法第九六条によつて当選人の更正決定をすることは許されないものといわなければならない。

その他論旨のるる述べるところは、あるいは原判決の事実認定を非難し、あるいは原審の認定にそわない主張であつて、到底これを採用することができない。

以上説明のように論旨はすべて理由がないから、本件上告を棄却することとし、民訴三九六条、三八四条、九五条、八九条に従い、裁判官全貝一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 河村大助 裁判官 奥野健一)

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